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これは、看護、52(1),48-51, 2000 に掲載されたものです。


看護実践国際分類(ICNP®):看護用語の国際的標準化
長野県看護大学助教授 佐藤重美

はじめに 
 ナースが関心を寄せている諸現象や行っているケアを言葉で明確に表現し、標準化しようとする動きが世界各地で見られる。用語の標準化とは、個々の概念についての共通理解が得られるように明確に定義し、その概念を表すために使う用語に合意を形成することである。北米における看護診断用語の開発と標準化1)はその代表的なもので、近年では看護介入2)、看護成果用語3)でも標準化に向けた作業が行われている。一方 ICN(国際看護婦協会)でも世界中のナースが共有できるような看護診断、看護介入、看護成果用語の標準化に取り組んでいる。
 看護実践を表現する用語の標準化はなぜ必要なのか。それも国単位のものばかりでなく、世界規模のものが必要なのか。以下、看護実践国際分類(ICNP®)の概要を解説し、看護用語を標準化することの意義について「知識の体系化」「コミュニケーションの促進」「データベースの活用」の密接に関係している3つの側面から考察するとともに、今後の取り組みに向けた提案をしたい。

ICNP®事業開始の背景
 ICNP®は第19回ICN大会(1989年、韓国ソウル)のCNR(国家代表者会議)において採択された。ナースが行っている看護実践を適切に表現する言葉が十分でないために、人々の健康に対するナースの貢献を社会に明示することができない、といった憂慮は世界共通のものであった。
 看護実践を言語化し標準化する目的は、単に看護を社会にアピールするだけにとどまらない。「それに名前を付けることができなければ、それをコントロールすることも、それに対して財源を確保することも、それを教えることも、研究することも、政策とすることもできない。」 ICNP®コンサルタントのNorma Lang4)の有名な言葉であるが、この中に看護実践を言語・標準化することの意義が集約されている。
 ICNP®はInternational Classification for Nursing Practiceの頭文字で、看護実践国際分類と邦訳されている。ICNP®はICNが実施しているプロジェクトとそのプロジェクトから生まれる分類大系の両方を意味する。ICNP®はICNが世界的な規模で、長期的展望の基に1991年から取り組んでいる一大プロジェクトである。

ICNP®プロジェクト
 プロジェクトのコア・チームは8人のスタッフで構成されている。文献調査やICN会員協会への質問紙調査5)から既存の看護分類を集め、看護診断、看護介入、看護成果用語の標準化作業を行っている。新しく用語を開発しているのではなく、既存の用語間の相互関係を明らかにし、全体的な分類の枠組み作り、統合のためのフレームワーク(a unifying framework)6)作りを目指している。コア・チームの活動に加え、世界各国への参加協力も随時呼び掛け、これまでジュネーブ、メキシコ、台湾で会議を開催した他、各ICN大会でも関連セッションを企画し、情報の発信ならびに交換を行っている。
 ICNP®には世界中の看護ボキャブラリーとして、看護現象(Nursing Phenomena)、看護介入(Nursing Interventions)、看護成果(Nursing Outcomes)用語が含まれている。「診断」という言葉に抵抗を持つ国もあるため、「看護診断」よりも幅広い「看護現象」が用いられている。また「看護介入」分類は「看護行為」(Nursing Actions)分類と現在では呼ばれている。ナースの実践上の行動は「看護行為」であり、看護診断に基づき看護行為を行うことが「看護介入」と説明されている。
 第1草案となったアルファバージョン7)は1996年12月に発表された。アルファバージョンをたたき台に、各国の看護協会や個人メンバーに意見を求め、最終的には17カ国がフィードバックを寄せたという。ヨーロッパでは欧州連合諸国間の看護標準言語としてICNP®を採用したいという差し迫った目的があった。そこで当初から積極的にICNP®プロジェクトに参加しており、アルファバージョンのフィールド・テストも実施している。アルファバージョンは、日本語8)を含む16言語に翻訳されている。

ICNP®ベータバージョン
 改訂版のベータバージョンが1999年5月に発表され、インターネットで簡単にアクセスできるが、邦訳はされてはいない(http://icn.ch/ICNPupdate.htm)。 アルファバージョンとは分類枠組みが多少異なるが、一番の変化は多軸分類(multi-axial classification)と呼ばれる形式である。既存分類から集めた看護用語の単純とも言える並列であったアルファバージョンに比べ、ベータバージョンでは標準化された用語の組み合わによる複雑で詳細な表現を可能にしている。
 看護現象分類には看護実践の焦点、判断、頻度、持続時間、側、身体部位、可能性、対象の8つの軸があり、各軸に分類されている用語の中から必要なものを選び看護診断として表現する。例えば、看護実践の焦点「疼痛」、判断「非常に強い」、頻度「間欠的」、側「左」、身体部位「足」を組み合わせることで、「非常に強い間欠的な左足の疼痛」と最終的な表現ができる。
 看護行為分類にも同様に行為のタイプ、標的、方法、時間、側、部位/場所、ルート、対象の8つの軸があり、各軸の用語を選び組み合わせて看護介入として表現する。例えば、行為のタイプ「緩和」、標的「疼痛」、方法「冷却パック」、側「左」、身体部位「足」を組み合わせることで「左足の疼痛を冷却パックで緩和する」と表現できる。
 ICNP®では看護成果用語の標準化も目指してきたが、看護成果は看護現象用語を使うことで表現可能と判断され9), 10)、独立した看護成果用語の分類は存在していない。
 ベータバージョンには膨大な看護用語が分類されている。看護記録がコンピュータ化され、使い易いソフトウエア上ならば意義ある使用も可能であろう。しかし、分厚いマニュアルを片手に手書きで看護記録する姿は想像し難い。ICNP®は看護用語の「電話帳」を作る作業だとICNP®テクニカル・アドバイザーGunnar H. Nielsenは言っていた。看護用語の標準化・分類作業において、概念を重視すれば表現が限られ過ぎ(電話帳が薄くなる)、言語を重視すれば表現が多様になりすぎる(電話帳が厚くなる)という問題点をどう解決してゆくのかが今後の課題かもしれない。

看護用語の標準化と知識の体系化
 看護用語を標準化するということは、看護実践の直接的な標準化を意味するものではない。ナースは臨床判断を個々に行わなくてはならないし、患者一人ひとりには個別のケアが必要である。標準化した看護用語はナースの臨床判断を助けるツールであり、知識としてそれを持つことに意義がある。個々のナースのレベルに限らず、看護学にとっても専門的知識の体系化として意義がある。
 看護の学問としての目標は独自の知識をより発展させること、看護実践に役立つ理論の構築である。理論には以下の4つの発達段階があることをDickoff と Jamesら11)は説明している。
  I. Factor-isolating theories
  II. Factor-relating theories
  III. Situation-relating theories
  IV. Situation-producing theories 
第一段階、Factor-isolating theoriesとは概念の明確化を意味する。この段階で個々の概念が明確になると、概念と概念の関係を示す次の段階の理論、Factor-relating theoriesの構築が可能になる。言い替えれば、概念の明確化なしには、高度な理論は発達しえない。
 看護診断、看護介入、看護成果の開発・分類作業は、理論の第一段階、看護領域における概念の明確化として位置付けられてきた。つまり看護用語の標準化により高度な理論開発に向けた材料としての概念が整えば、看護診断を中心に介入や成果の関連性を明らかにするような、実践に役立つ理論の構築が可能になるであろう。

看護用語の標準化とコミュニケーションの円滑化
 同じ病院の中でも病棟毎に、あるいはナース毎に異なる看護用語を使っていたら、患者さんの状態を正しく把握し、適切なケアを実施し、継続させることは不可能になってしまう。標準化した看護用語を使うことにより、看護実践を表現し記録することが容易となる。国内の場合、標準化した看護用語でコミュニケーションが円滑になることはイメージしやすい。
 では国外との場合はどうか。人の思考の単位である概念を国際組織で共有するためには、言語の標準化がさらに重要になる。「ガーゼ」「摂子」といった具象物を表す概念ならば容易に共有できても、概念が抽象的になればなるほどそれを共有するための高度な標準化が必要になる。ナースが関心を寄せる諸現象は、例えば「無力感」「霊的苦悩」など、複雑で言語化の難しい概念が多い。会話ならば概念の共有に困難があっても、言葉の言い換えやボディーランゲージで補足が可能である。しかし人間による臨機応変な対処ができない文書、特にコンピュータ情報システムにおいては、厳密な標準化が要求される。ICNP®のゴールは国際的な看護用語の標準化である。
 インターネットという世界最大のコンピュータネットワークに接続することはいつでもどこでも簡単にできる時代となった。インターネット上で国際的に標準化された看護用語を使用することで、学際的な情報交換の可能性は無限大に広がる。つまり国内外を通しての研究協力が可能にかつ容易となり、同じ現象に興味を持つ世界中の看護研究者の間で情報交換が効果的に行える。これは、結果的には看護学全体としての資源や労力の無駄遣いをなくし、迅速な看護知識の体系化につながるであろう。

看護用語の標準化とデータベースの活用

 看護を社会にアピールすべく始まった看護実践の言語化・標準化であったが、現在はむしろ、看護情報のコンピュータシステム化が強調されている。我が国における看護用語の標準化作業は、他の先進諸国と比べかなり遅れている。その原因として、コンピュータシステムによる医療情報管理の整備の遅れをあげたい。我が国には看護用語の標準化が必要となる土壌がまずないのである。
 北米で看護診断用語の開発作業が始まった1970年代には既に、コンピュータに入力する看護情報としての用語開発、という明確な目的が記されている12)。看護用語の標準化を看護情報のコンピュータシステム化と切り離して考えることは不可能である。欧州連合のTeleNurse13)では、コンピューター化された患者情報を個人データとして使用するばかりでなく、保健統計や諸研究への利用も考えられており参考となるところが多い。このような世界的な動向を見ると、日本でもコンピュータ上の電子カルテに看護実践を記録する日はそう遠くないはずである。
 情報管理にコンピュータシステムを導入すると、大量の情報を半永久的に貯蔵しておくことが可能になる。標準化された用語による看護情報のデータベースが充実すれば、必要な情報の取り出しはいつでも可能で、コンピュータが得意とする統計処理を使い、看護管理、実践、教育、研究面でのデータ活用はもちろんのこと、政策上に必要な判断の資料も提供できる。最近着目されているエビデンス・ベースト・ナーシングのためも、そのエビデンス、根拠となるデータを容易に入手でき、質の高い看護の提供にもつながるであろう。
 
ICNP®とNANDA
 ICNP®が発達すればNANDA看護診断分類はどうなるのか? NANDAの活動は停止するのか?という疑問をよく耳にするので、ここで触れておく。
 ICNP®では、既存の看護診断がICNP®の看護現象の中に包含されると説明している14)。ICNP®の看護現象分類には世界各国で使用されてきた看護問題、ニーズ、看護診断用語が含まれている。 そもそもNANDA看護診断分類は北米で使われる看護問題のリストとして開発されたものである。したがって、世界的な視野に立った ICNP®看護現象分類のほうがNANDA看護診断分類よりも、より包括的な分類システムになるのは当然のことである。
 ICNP®はあくまで既存の看護用語の分類作業であり、新たな用語開発は行わない。NANDAに限らず各国が持つこのような組織は、まだ明確化・言語化されていない看護現象にラベルをつけ、それを研究的に裏付ける活動を行っている。したがって看護用語の開発母体としてNANDAのような組織の存続は不可欠である。

今後の取り組みに向けて

 ICNP®のような看護用語の標準化は、意義も必要性もあることを強調してきた。しかし、我が国においては、その作業の遅れが看護界で問題視されていない。
 日本看護協会は、ICNP®プロジェクト開始当初から委員を派遣している。台湾で開催されたワークショップにも2回参加している15) , 16)。しかし、国内的には組織的かつ積極的な取り組みはほとんどみられない。西洋とは異なる言語や文化を持つ日本からICNP®に対して積極的に意見を入れることが重要なのである。看護用語の開発、標準化、分類作業には長期的な展望、フルタイムのスタッフ、莫大な研究資金が必要となる。必要性を会員に問いプロジェクトを日本看護協会が発足させるか、あるいは個々の研究者が国にその必要性を訴えて公費による研究を推進することが急務ではないだろうか。
 ICNP®はあくまで臨床判断を助けるツールとして存在するものであり、それをどのように使うかは個々のナースの実力にかかわってくる。世界のナースが行っている看護実践が標準化された用語で表現され、人々の健康に対するナースの貢献が社会に明らかになる日も近い。ナースが抱えていた長年の課題「それに名前を付けることができない」は解決しつつある。専門職としての社会に対するの責任を見直す必要がありそうだ。
 それをコントロールし、それに対して財源を確保し、それを教え、研究し、政策とするのは、我々ナースなのである。

引用文献
1) NANDA: Nursing Diagnoses: Definitions & classification, 1999-2000, NANDA, 1998.
2) J. C. McCloskey, G. M. Bulechek, eds: Nursing interventions classification, Mosby, 1996.
3) M. Johnson, M. Maas, eds: Nursing outcomes classification, Mosby, 1997.
4) Clark, J., & Lang, N.: Nursing's next advance: An international classification for nursing practice, International Nursing Review, 39 (4), 109-111, 128, 1992.
5) Wake, et al.: Toward an international classification for nursing practice: A literature review & survey, International Nursing Review, 40(3), 77-80, 1993.
6) ICN: Introducing ICN's International Classification for Nursing Practice (ICNP®): A Unifying Framework, International Nursing Review, 43 (6), 169-170, 1996.
7) ICN: The International Classification for Nursing Practice: A unifying framework, The Alpha Version, ICN, 1996.
8) 特集、看護の共通言語を構築する、看護実践国際分類(ICNP®)/アルファバージョン、インターナショナルナーシングレビュー、20(3), 1997.
9) Nielsen, G. H., & Mortensen, R. A.: The architecture of ICNP®: Time for outcomes-Part I, International Nursing Review, 44(6), 182-188, 176, 1997.
10) Nielsen, G. H., & Mortensen, R. A.: The architecture of ICNP®: Time for outcomes-Part II, International Nursing Review, 45(1), 27-31, 1997.
11) Dickoff, J., James, P., & Wiedenbach, E. :Theory in a practice discipline part I: Practice oriented theory, Nursing Research, 17(5), 415-435, 1968.
12) K. M. Gebbie, & M. A. Lavin編:Classification of nursing diagnoses: proceedings of the first national conference, The C.V. Mosby Company, 1975.
13) Randi A. Mortensen: ICNP® in Europe: TELENURSE、IOS Press、1998.
14) 岡谷恵子:第21回ICN大会リポート 看護実践国際分類(ICNP®)について、看護、49(11), 133-137.
15) 中西睦子、村島幸代:看護実践国際分類(ICNP®) ワークショップ報告、看護、48(15), 169-183.
16) 岡谷恵子、佐藤重美: 第2回アジア・大平洋地域看護実践国際分類(ICNP®) ワークショップ、インターナショナルナーシングレビュー、 22 (1)、 52-55、1998.


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