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これは、インターナショナルナーシングレビュー、22(1)、52-55、1999に掲載されたものです。

 
報告
第2回アジア太・平洋地域看護実践国際分類(ICNP®)ワークショップ
日本看護協会常任理事 岡谷恵子
長野県看護大学講師  佐藤重美

はじめに 
 1998年9月1日から6日までの6日間にわたって、台湾の台北市で、第2回アジア・太平洋地域の看護実践国際分類(ICNP®)ワークショップが開催された。このワークショップは台湾看護婦協会と国際看護婦協会(ICN)の主催によるもので、日本からは筆者ら2名が4日間参加した。
 4日間にわたるワークショップの模様をここに報告し、ICNP®が今後どのように発展していくのか、そしてわが国はどのように取り組んでいくべきか考えてみたい。

ワークショップ開催の経緯と目的
 1990年から始まった看護実践国際分類(ICNP®)作業は、世界中の看護現象・看護介入(看護行為)・看護結果(アウトカム)に関する用語を整理し、各国の看護実践に関する言語を統合するような枠組み作りを目指している。第一次の作業成果としてICNP®アルファバージョンが公表されている。アルファバージョンは、各国で翻訳され、それぞれの国においてその用語や分類の妥当性について検討された。検討の結果は、次のステップであるベータバージョンへのフィードバックとしてICNのICNP®プロジェクトに報告された。
 1995年にはICNP®開発に関するICN諮問会議が台湾で開催され、アジア・太平洋諸国から日本を含む9カ国の代表者が集まった。この会議開催を機に、ICNP®アジア太平洋地域センターが台湾に設置された。今回は台湾で開催された2回目のICNP®ワークショップであり、前回の会議で各国代表者が自国に持ち返った検討課題についてのその後の情報交換と、ICNP®をより多くのアジア太平洋諸国に広めることが主たる目的であった。
 今回のワークショップの到達目標としては以下5項目が挙げられていた。
1. ICNP®の開発と今後の展望を理解する。
2. 欧州におけるICNP®の現状を理解する。
3. アジア・太平洋諸国の臨床におけるICNP®使用の可能性、および本地域における看護共通言語発展の可能性を探る。
4. アジア・太平洋諸国間でICNP®使用から得た知識を交換する。
5. アジア・太平洋諸国の看護ケア質向上をめざす努力を開始する。

参加国と参加者
 今回は前回を上回る数の国が参加した。アジア・太平洋地域からは、オーストラリア、韓国、クック諸島、サモア、スリランカ、ソロモン諸島、タイ、台湾、トンガ、日本、ニュージーランド、フィリピン、香港、そしてマレーシアの14カ国である。各国の代表は全部で26人で、看護婦協会会長を始めとする協会の役員や看護言語の研究者らが主であった。主催者である台湾看護婦協会からの参加者は会長を始め、協会役員などを含め全部で54人であった。このうち32人は11の看護大学に所属する教育・研究者であり、17人は15の病院に所属する看護管理者およびスタッフ、そして残る5人は台湾看護婦協会、台湾助産婦協会、政府およびその関連機関に所属していた。台湾からの参加者が多いが、これは主催国であるからというだけでなく、台湾の教育・臨床分野におけるICNP®の関心が高さを示すものと思われた。
 また、ICNからはICNP®プロジェクトの関係者である第3副会長、理事2人、看護コンサルタント、およびヨーロッパでのICNP®に関する研究者の合計5人が参加した。

ワークショップの内容

第1日

 ICN理事のYu-Mei Chao博士が、アジア・太平洋地域におけるICNP®ワークショップ開催の背景および目的について講演した。西洋とは異なる言語や文化を持つアジア・太平洋地域から、ICNP®プロジェクトに対して積極的に意見を提出することの必要性、そのための協力体制の必要性が強調された。講演を終えた後、博士は、日本や香港など台湾と言語に共通性が高い国同士の共同研究を今後強力に進めることが必要であると筆者に強調していた。
 ICNの看護コンサルタントで、ICNP®の担当者である、Fadwa Affara女史は、ICNP®の過去、現在、未来について講演した。その中で特に、アルファバージョンに関する各国からフィードバックに触れた。各国からフィードバックを受けることを目的として、1996年末にICNP®のアルファバージョンが出版されたが、これは日本語を含む16言語に翻訳されており、17カ国が既にICNにフィードバックを寄せているということであった。看護実践を反映し、常に「生きている」ICNP®足るためには、継続的な改訂が必要であること、また情報科学の進歩と歩調を合わせて進めて行くことも不可欠であることが強調された。
 デンマーク健康看護研究所のシステムエンジニアである、Gunnar Haase Nielson氏が、ICNP®のベータバージョン作成に向けての過程を報告した。ベータバージョンもアルファバージョン同様に看護現象、看護行為(ベータバージョンでは看護介入に変えてこの用語を使っている)、看護結果(アウトカム)から構成されている。アルファバージョンとの違いは、上記3要素が各々にa multi-axial classification(多軸分類)されることである。こうすることで各国から出される異なった表現が分類可能になるというが、講演を聞いただけでは複雑なベータバージョンの全体像を具体的にイメージするのは困難であった。 講演の中では、「ICNP®は看護言語の“電話帳”を作る作業だと」いう表現が使われていた。分類作業において、概念を重視すれば表現が限られ過ぎるし(電話帳が薄くなる)、言語を重視すれば表現が多様になりすぎる(電話帳が厚くなる)という問題点の指摘が印象的であった。

第2日
 Gunnar Haase Nielson氏が、欧州の「TeleNurse」プロジェクトについて講演した。欧州連合(EU)の諸国間では、患者記録をコンピューター化することで情報伝達の促進と活用を目指している。いくつかのプロジェクトが同時進行する中で、看護領域の患者記録コンピューター化の取り組みが「TeleNurse」プロジェクトである。ヨーロッパではEU統合の動きとあいまって、国境を超えた看護の共通言語としてICNP®を活用することがさまざまな国で検討されている。コンピューター化された患者情報は、個人データとして使用されるのみならず、統計処理により保健統計や諸研究への利用も可能だという。このようなシステム開発には、企業やシステムエンジニアとの協力体制の確立が不可欠であることも強調されていた。
 ICN理事であるアテネ大学のVassiliki Lanara博士が、欧州の「Nightingale」プロジェクトについて講演した。これは「TeleNurse」の成功に不可欠な、利用者である看護婦の情報処理能力の育成を目指す教育・研究プロジェクトで、1996年の1月から行われている。利用者側つまり看護婦のニードの把握から始まり、教育方法の検討、マルチメディアを使った教材およびカリキュラムの開発、その有効性の評価までが含まれている。周到にデザインされたプロジェクトとしての印象が強く、欧州の「TeleNurse」にかけた意気込みがさらに強く感じられた。
 アジア・太平洋地域からの参加14カ国が、各国でのICNP®の現状と課題を10分程度で報告した。ICNP®の有用性を認めながらも、アジア・太平洋地域では欧州と異なり、まだ実際に利用している国は少なかった。今回のワークショップで初めてICNP®を学習している参加国もあった。しかし、前回のワークショップに参加した韓国、タイ、台湾では、看護婦協会を中心にICNP®委員会あるいは研究チームが組織され、臨床現場でのICNP®の妥当性検討が始まっていた。
 日本は前回のワークショップに参加しているものの、その後のICNP®への組織的な取り組みは十分ではなく、他国からの遅れを痛感した。以下の内容を日本の現状と課題として報告した:
・日本では、看護診断の概念およびその用語は広く普及しており、特に看護学校での教育で看護診断の枠組みが使用されている。看護の共通言語をもつことの必要性については少しずつ高まっている。
・日本では、ICNP®アルファバージョンの翻訳出版を行い、どう検討プロジェクトを日本看護協会が設置した。
・日本における今後の課題としては、ICNP®に関する研究の促進、研究チームの組織化、およびICNP®に関する教育機会提供の必要性がある。

 そのほか、Yu-Mei Chao博士による「情報処理(Information Processsing)と看護婦の行動」、香港のThomas Wong博士による「臨床における意志決定(Clinical Decision Making)」という題での研究発表があった。

第3日
 台湾における ICNP®の臨床適用事例が報告され、ICNP®を活用する際の問題点が指摘された。事例には自然分娩、帝王切開、大腿骨人工骨頭置換術、経尿道的前立腺切除術の4例が使われた。これらの自邸においては最初からICNP®用語を使って看護が展開されたのではなく、展開した看護をICNP®の用語に当てはめて表現するという作業の結果が報告された。指摘された問題点としては、言語(翻訳)に関すること、表現の抽象度に関すること、コーディングの複雑さがあった。
 続いて、参加者全員が3 つのグループに分かれ、今後のICNP®に対する検討課題および推進のための方策を話し合い、その後全体での話し合いを行った。ICNP®の開発・推進に向けた取り組みとして提案されたことは以下の通りであった:
・ICNP®の推進・検討チームを各国に結成する。このチームには臨床の看護婦、教育者のみならず、政策に関わる看護婦を含む必要があること。
・ICNP®の普及に努めること。看護婦だけでなく、他の専門職者、一般市民にもICNP®の概念や考え方、用語を広める必要があること。普及にはコンピュータ技術も活用できること。
・ICNP®プロジェクトの運営および研究資金を獲得すること。資金がなければ、頭脳作業(周到な計画)から始めること。
・アジア・太平洋地域内にさらに小さな地域グループを作り、情報交換や研究協力を図ること。

第4日
 台湾での議論はこの日が最後であったが、今回のワークショップ全体を通してのまとめおよび評価が行われた。
 議論の中で明らかになったことのひとつに、ICNP®の性質についての認識の違いということがあった。ICNP®はあくまでも看護現象や看護行為、看護の結果を表す用語の分類体系であるという認識と、ICNP®は看護過程の展開において使える枠組みとしてのツールであるという認識の2つが存在したのである。したがって、ある参加者は、看護実践におけるある種のアセスメントツールとしてICNP®を活用することに関心を示した。筆者は、ICNP®はまず用語の分類体系であることを認識することが重要ではないかと感じた。
 ICNは現在各国からのフィードバックを受けて、ベータバージョン作成の最終段階に入っている。おそらく1999年の早い段階には、世界各国に向けてベータバージョンの公表が行えるだろうということである。看護領域において、またそれらの問題解決のための看護行為とその結果や成果について、共通の言語を開発する必要性が、今回のワークショップの参加者の間でさらに共有された。
 ただ、今回参加した国々の医療や看護の制度、提供システム、医療・看護に影響を及ぼす社会状況等はさまざまであり、したがってICNP®への取り組みには大きな差があった。これらの差を埋めるために、各国間での共同研究や情報交換の必要性が強調された。
 また、ICNP®の普及・発展は、看護ケアの質を保証する上で非常に有効なものであることが改めて、参加者の間で認識された。

おわりに
 第2回アジア太平洋地域ICNP®ワークショップに出席して、看護におけるICNP®プロジェクトの必要性および重要性を最認識した。
 ICNP®の開発・発展には、地道で継続的な取り組みが要求される。日本ではまだ組織的な取り組みが行われておらず、上記の提案にあるように、 ICNP®の推進・検討チームの結成が急務だと考える。 特にヨーロッパでの「TeleNurse」プロジェクトや、患者記録のコンピュータ化に関してICNP®を活用するための研究成果は、日本においても今後電子カルテなど記録のコンピュータ化を進める上で非常に参考になると感じた。
 言語の類似している台湾、香港との情報交換や研究協力を図ることも有用だと思われる。
 ICNP® は各国の看護実践言語を統合する枠組みであり、わが国からも積極的に意見を出さない限り、ICNP®が日本の看護実践を反映するものにならないであろう。看護者の間だけで通用する言語だけを使っていては、看護実践の意味や価値を伝えることはできないし、看護の成果を評価し、示すことも困難であろう。この意味において、今後のICNP®に関する取り組みでは、看護者に対するICNP®の普及も重要であるが、他職種への説明や、行政に対してもアピールしていく必要性を痛切に感じている。


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